引越し先が決まり、新生活に向けての準備を進める。期待で心が踊る期間ですよね。
でも現実に目を向けると……引越しのために荷造りをしなくてはいけませんし、荷物を運び出したあとはこれまで住んでいた部屋の掃除が待っています。
「どうせ出て行く部屋だから」と考え、面倒な掃除を避けたくなるのはわかります。でも丁寧に掃除をすることで、敷金が多く返ってくるとしたら!?
また、「敷金は掛け捨てで構わないけど、お世話になった部屋だから最低限の掃除はしたい」という方もいらっしゃるようですが、そもそも『最低限の掃除』って?
そこで今回は、引越しをする際に住んでいた部屋をどこまで掃除したら良いのか、ポイントとコツをご紹介します。
【目次】
1. 敷金は返ってくるものなの?
契約時に礼金と併せて支払っておく敷金。
家賃を滞納したり、お部屋を汚したり、設備を壊してしまったときのために貸主に預ける、いわば保証金です。
そもそも敷金とは、返ってくることを期待して良いお金なのでしょうか?
普通の生活をしていれば、家賃を滞納したり部屋を破壊することはありませんから、返してもらえるお金と考えて大丈夫。
ただし契約によっては、どんなにキレイに使っていても敷金から差し引かれるお金があります。
それは『ハウスクリーニング』の費用。では、ハウスクリーニングについてご説明していきましょう。
2. 敷金から差し引かれる「ハウスクリーニング費用」って何?
あなたが部屋を借りたときのことを思い出してください。
部屋自体の劣化は築年数によってあるものの、何日も掃除をしていないほどのゴミやホコリはなかったと思います。
前に住んでいた人がいたとしても、あなたが引越してくるときには、掃除されたキレイな状態だったのではないでしょうか?
多くの賃貸物件では、借り主が代わる際に、ハウスクリーニングと呼ばれる専門業者による清掃を行ないます。
汚れ具合によって異なりますが、基本的な部屋の掃除にはじまり、キッチン・トイレ・バスルームといった水回り、換気扇、エアコンにいたるまでをキレイな状態に戻します。
新生活を始めるにあたり、大掛かりな掃除をする必要がないのは嬉しいですよね。
2-1. ハウスクリーニング費用は入居者負担
実はこのハウスクリーニング、多くの場合は「入居者が費用を負担する」という契約が結ばれています。
それは、あなたが部屋を借りて退去することになったら、ハウスクリーニング費用を負担する可能性があるということ。
そしてこのハウスクリーニング費用は、契約時に支払っていた敷金の一部が充てられるケースが多いのです。
つまり、最終的に手元に戻ってくる敷金は、事前に預けていたお金からハウスクリーニング費用を引かれた金額になると考えておく必要がある、というわけです。
2-2. ハウスクリーニング費用の負担を拒否するには
入居者負担という契約が多いハウスクリーニング費用。
しかし近年では裁判の末に、「契約書に書かれていても、ハウスクリーニング代を入居者が支払う根拠に乏しい」という借り主に有利な判決が下ることが増えています。
これは、「通常消耗の範囲については月々の家賃支払でまかなわれる」とされ、故意や過失での汚れ・損傷でなければ入居者が負担する必要はないということ。
ハウスクリーニングは、次の入居者を募集するための清掃という要素も含むため、それを元の入居者が負担するのはおかしいという見方もあるようです。
ただし契約を結んでいる以上、その判例を伝えたところで「では貸主が全額負担します」となることは期待しにくいもの。
費用負担を拒否できる可能性はありますが、その場合は専門の弁護士に依頼して裁判を起こすなど、徹底的にやり切る覚悟が必要と言えそうです。
3. 敷金を多く返してもらうには、どこまで掃除するべき?
自分のお金を使ってハウスクリーニングをするのだから、面倒な掃除はしなくて良いのでは……と思う気持ちはわかります。
ただでさえ荷造りや荷解きで忙しいのですから、「全部プロに任せてしまおう!」と思うのはごもっとも。
ただし、汚れが酷ければ酷いほど、ハウスクリーニング費用は高くなります。
ハウスクリーニング業者を決めるのは大半が貸主や不動産会社のため、費用についてあなたが交渉をする余地はほとんどないでしょう。
ハウスクリーニング費用が高くなれば、当然ながら敷金の返還額は少なくなってしまいます。
では、敷金を少しでも多く返してもらうためには、どの程度まで掃除をするのがベストなのでしょうか?
3-1. 原状回復という義務
まずは、「原状回復」という義務について抑えておきましょう。
不動産の賃貸借契約が終了する際(退去するとき)には、借り主には「借りた時の状態に復帰する」という義務があります。
これを「原状回復」といい、「原状回復」として定義された状態で退去すれば、余分なハウスクリーニング費用を差し引かれることはありません。
実は退去時の敷金返還トラブルは多く、特に揉める傾向にあるのが「原状回復」の範囲について。
そこで国土交通省は、争いを避けるため、また借り主を保護する目的で、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公開しています。
このガイドラインをもとに、原状回復の範囲に含まれる部分・含まれない部分を見てみましょう。
これが、退去時にどの程度掃除をすれば良いかの判断軸になります。
3-2. 入居者の責任にならない汚れ
まずご紹介するのは、原状回復の範囲外とされる部分。
「フローリングの色落ち」「畳やクロスの変色」「家具の設置による床やカーペットのへこみ」「テレビや冷蔵庫の設置による電気ヤケ」などは、普通に住んでいても発生する損耗とされています。
つまり、これらは修復しなくてもOKということ。
敷金から余分なクリーニング費用が差し引かれることはありません。
【point】
これらの損耗を自分の責任と判断して、掃除をしてしまった場合。
素材や薬品などによっては変色が悪化し、「通常の生活で発生した損耗」ではなくなる可能性があります。
手間をかけて掃除したことで、逆に原状回復義務が発生してしまった…なんていう結果にならないよう、充分注意してください。
3-3. 入居者の責任になる汚れ
続いて紹介するのは、原状回復の義務があるとされる部分。
ガイドラインによると、「台所の油汚れ」「ガスコンロ置き場、換気扇の油汚れ」「風呂場・トイレ・洗面台の水垢・カビ」などについては、通常使用による損耗にあたる場合と、除外される場合があるようです。
普通に使用していれば油汚れは必ず発生します。
しかし、油汚れを認識しながら放っておいた場合、こびりついて通常の掃除では落としきれない汚れになってしまいます。
そうなると、原状回復の費用を負担しなければならない可能性が出てくるのです。
【point】
「台所」「風呂場」「トイレ」「洗面所」などの水回りは、不動産会社も重点的にチェックする部分。
退去前に念入りに掃除しておくことをオススメします。
あまりに汚れが酷ければ、「この人はキレイに使ってくれなかった」というマイナスの印象を抱かれ、普段より費用をかけてハウスクリーニングを依頼されることもあるかもしれません。
4. 自分でできる!敷金を多く返してもらうための掃除方法
ハウスクリーニングの費用を抑えるために、できる範囲は自分でキレイにしてしまいましょう。
掃除をする場所ごとに道具やコツが異なりますので、以下を覚えておくと便利です。
4-1. キッチン・換気扇・レンジフード・シンク
汚れをためないためには、料理のときは必ず換気扇を回して、使用後に拭いておくことをオススメします。
何日も掃除を怠った場合、油汚れは固まってしまいます。
そうなると、水拭きや洗剤を使ってもお手上げ。
軽度の汚れであれば、水に濡らした雑巾で拭き取ることが可能。
それでも油が残っているようでしたら、熱湯をかけて溶かしてから拭きあげましょう。
それでもキレイにならない場合は、汚れ部分に弱アルカリ性の洗剤クリームクレンザーを付けてから拭いてあげてください。
雑巾や布きれで充分ですし、使い古しのストッキングを利用してもかまいません。
コツは、布を少し濡らしてから拭くこと。たいていの汚れはキレイになります。
4-2. 浴室・バスルーム
基本的な汚れは、浴室用洗剤を使えばOK。
バスルームの床・壁・天井に浴室用洗剤をつけてスポンジでこすってください。
湯アカがこびりついてしまい、こすっても落ちない場合。
浴室用洗剤をスプレーしてから、台所用のラップを貼り付けてください。
洗剤を染み込ませたティッシュペーパーでも代用可能です。
10分ほど放置すると汚れが浮いてきますので、スポンジで軽くこすってキレイにしましょう。
また浴室の床などにカビがついてしまった場合。
ドラッグストアで売っているカビ取り剤を利用してください。
塩素系カビ取り剤が一般的です。塩素系カビ取り剤を使う場合、こすらないのがポイント。
カビを殺菌漂白する仕組みですので、スプレーをしたら10分ほど放置し、洗い流してください。
4-3. フローリング・カーペット・畳
フローリング:フローリングの場合、まずは掃除機でゴミやホコリを吸い取りましょう。
その後、掃除機では取りきれない細かいゴミやホコリを取り除くために、雑巾で拭き掃除。
雑巾の代わりに、市販のフローリング用ワイパー(クイックルワイパーなど)を利用するのが便利です。
細かなゴミや髪の毛などをしっかり取ってくれます。
カーペット:掃除機をよくかけることが一番です。
飲料などをこぼした汚れがある場合、カーペット用の洗剤を使いましょう。
できれば良く晴れた日に換気をしてからがオススメ。
湿気が残ってしまうと、カーペットに濡れた後がついてしまいます。
固く絞った雑巾で、前後・左右に毛足を起こすように拭きます。
最後に水で濡らした雑巾で拭きあげて終了です。
畳:畳の掃除は、基本的に水拭きはNGです。掃き掃除や乾拭きで済ませましょう。
どうしても水分が必要な場合は、換気をした状態=湿気がこもらない状態にして、固く絞った雑巾で軽く拭いてください。
強くこすり過ぎると畳の繊維を壊してしまうため、注意が必要です。
5. まとめ
引越し前の掃除はどの程度までやれば良いか?という疑問について、「敷金の返還」という観点から考えてみました。
退去時の掃除ポイントとして意識したいのは、「通常の使用による損耗」と判断できる程度の掃除がされているかどうか。
退去時だけでキレイにしようと思ったら大仕事ですので、普段からこまめに掃除をして清潔な状態を保っておくことが重要ですね。